女はいつも通り、荷物を受け取りにやってきた。彼女は誰にも自分の住所を教えず、小包はもちろん葉書一枚でさえ、郵便局や宅配便の営業所に留め置くよう指示していた。そこの営業所はいつも殺風景であちこち埃をかぶっており、その灰色の室内に女性社員の化粧が映えた。いつもいる2人の社員はどちらも肉付きが良く化粧が派手だったので、それが所長の好みのタイプなんだろう、と女は勝手に思っていた。
 季節は夏。猛暑である。いつもは客などいない営業所も、お中元や残暑見舞いを送る人で賑わう。梨、桃、メロンなど、果物を詰めた大きな箱が多い。女が自分宛の荷物を受け取って帰ろうとしたとき、初老の男がダンボール箱を抱えて入ってきた。ちいさい子供でも持てるサイズで、なんの装飾もないただのダンボール箱。なんとなく気にかかり、女は立ち止まった。少なくとも果物じゃないな、と思っていると男が「亀なんだけど、5匹しか入ってないから。」と言った。かめ。男が言ったのを真似て、頭の中で発音してみる。次いでその姿を想像してみる。亀なんか送れるんだろうか?応対していた派手な女性社員は眉を下げ、明らかに困った様子で「生き物は基本的にダメなんですけどぉ・・」と言う。すると男、「死んでもいいからさ、届けてくれればいいから」。
 女の頭の中でやっとその形になりかけていた亀のイメージが、ひっくり返って悶えた。死んでもいいなんて、いくら相手が亀とはいえ、なんて酷いことを吐かしやがるこの爺。大体受け取る側も迷惑ではないか、箱を開けたら死んだ亀が5匹なんて。女は怒りながらも今度は、死んだ亀を想像している。暑さ、脱水、空腹に酸欠。きっと苦しんで死ぬに違いない。だけど―女は好奇心が湧き出るのを感じる―、亀は死ぬとき首や手足を仕舞うのかしら?それともだらりと甲羅の外へ投げ出すのかしら?
 亀が防御のために甲羅の中へ引っ込むのならば、死ぬときにも引っ込めるかもしれない。だけど外敵に襲われるわけではないのに防御をするだろうか・・・するとしたら「死」という概念を敵視しているということになる。亀も人間と同様、死ぬのが怖いのだろうか。
 彼女が考えている間に派手社員は、亀入りの箱のサイズを手早く測り、窓口の奥へと運んだ。