Billy Elliot

リトル・ダンサー BILLY ELLIOT [DVD]

リトル・ダンサー BILLY ELLIOT [DVD]


スティーヴン・ダルドリー監督『リトル・ダンサー


 5月にロンドンに行ったとき、地下鉄の駅にはたくさんのミュージカルのポスターがあって、その中にこの“Billy Elliot”のポスターも見つけた。私はこの映画をまだ観ていないことを思い出し、まあハズレではないらしいしな。ぐらいの気持ちで、たとえばパンク愛聴者が渋々ストラングラーズのLPを買うのよりは、少し、高いモチベーションで、観た。


 結果、珍しく泣き、清々しく感動した。


 映画においてミニマリスムという言葉を使うのは、たとえば全編白黒であったり、一人芝居や密室劇であったりという場合だと思う。この映画はそのどれにも当てはまらないが、イギリス映画特有のミニマリスムともいうべき、独特の雰囲気がある。ストを起こす労働者階級、母の死を乗り越えられない息子とその父親、文無しで迎えるクリスマス、炭鉱しかない田舎町には未来などない、80年代の英国。こういった映画の舞台は繰り返し語られるイギリス映画の定番であり、何も目新しくない。私がミニマリスムと呼ぶのはそのためである。つまりこの映画には、必要最低限の設定しかないのだ。最後のアダム・クーパーはちょっとズルイけどね。


 男がバレエをやるというのも、現実的には今だって珍しいことだけど、映画の主題としてはさほどでもないはず。それでもやはりこの作品が高く評価され、ミュージカルとしてロングランされているのは、演出の巧さと芝居の良さという、これまたド定番でミニマルな要素に起因しているとしか思えない。

 最近知人が、監督の仕事って何なの?脚本が良ければ監督なんか誰だっていいんじゃないの?というようなことを言っていたのだけど、やっぱりそれは全然違うわけで、こういう作品は下手な監督だとダサくて誰も見向きしないような映画になってしまうんじゃなかろうか。この少し演劇チックな、大袈裟な演出が実はちょうどいいっていうセンスは、スティーヴン・ダルドリーの手腕だと私は思う。主演のジェイミー・ベルが、すごく味のある表情で惹きつけられた。今はちょっとイーサン・ホークみたいな感じがするかな。自信なさげに見えて、色気のある笑顔をするところとか。他の作品ではあまり見かけなくて、私が観たのはグリーン・デイのPVだけだけど。あと父親役のゲアリー・ルイスも良かった。無骨で不器用だけど、観客に嫌われないお父さんを見事に見せてくれました。


 イギリス映画は暗かったり内容なかったりっていうのがよくあるけど、同じような舞台でもこういう泣けて笑える映画ってつくれるんだなあと思った。予算も少なそうだし。日々勉強していかないと、って爽やかに背筋が伸びる一本です。