皮膚

 中指のささくれを剥いだ。2mm×10mmくらいの、それなりに大きな皮切れを、机の上に置いた。ちっとも痛くなかった。
 5分ほどしてから、机に置いたそれを捨てようとして手に取ると、驚くほど乾燥していて剥がした直後とは形も色も変化していた。こたつの上に置いた蜜柑の皮ぐらいに、からからになっていた。指の方はまだ、皮膚を剥がされた痕がつるつるとして周りと同化できていないのに、剥がした方はもはや、その場所には戻れない形態になっている。
 この皮切れは、「私の」なのだろうか?
 私の皮膚、私の指、私の体。
 私の体は毎日、私の意図とは無関係に、古いものを棄てて新しくなっていっている。だけど私の心は、頭の中は、そんな体の進展について行かない。何も新しくならない体を想像してみる。それは非常に老いていて、死に向かってゆっくりと歩みを緩めている体だ。
 精神はそうなってはならない。体についてゆけ。