This Is It

minii2009-11-13


マイケル・ジャクソン THIS IS IT』を観てきた。

 人の死で金儲けすんな!って信条もあるし、マイケルは完璧主義だからリハーサル映像を公開するのは本意じゃないっていうラトーヤの主張も分かるから観に行くまいと思っていたけど、観た人はみんな良かったって言うし、観ないとやっぱり後悔するかもしれないから行ってきた。東京ではまだ満席なのかな?こっちはガラガラで快適に観れますよー。

 この映画を観てますますマイケルの死が信じられない、まだどこかで生きてるんじゃないかと感じたファンも多いかと思う。たしかに、ここ数年のメディアによる取り上げられ方からは想像もつかないほどの「健在ぶり」で、高い声も綺麗に出ているしダンスだって誰よりも上手いし、周りを固める世界中から集められた若くて才能溢れるダンサーたちと見比べても、マイケルがダントツで一番整ったプロポーションをしていて、とても睡眠薬に体を蝕まれているようには見えないのだ。

 でも、だからこそ、私はこの映画を観て、マイケルが死んだことを確認してしまった。

 そんなつもりないのに冒頭からけっこう泣いてしまったのは、彼の姿が「今は亡き偉人」にしか見えなかったからだ。たとえばチャップリンの映画を観たときのような、ピカソのお茶目なポートレートを写真集の中に発見したときのような、身近な人を失くしたときとはまた違ったあのさみしさが、心の中に現れたのである。

 マイケルは人が好すぎて死んだんじゃないだろうか。ダメ出しするときも絶対怒らず相手を傷つけないよう配慮するし、また誰かが怒られているときはかばうし、I love youとかGod bless youって何度言ったか分からないぐらいことあるごとに言ってる。彼ほどの人ならもっとずっと傲慢だって誰も文句など言うはずがないのに。オスカー・ワイルドの『幸福の王子』みたいだなと思った。身を呈して人に尽くして、最後には心臓が壊れてしまう王子。

 ただ、マイケルは幸福の王子と違って、みすぼらしい姿になって心無い人に捨てられたりしなかった。近年はそれに近い扱いも受けてたかもしれないけれど、彼自身はまだまだ現役だったし輝いてたし、才能もセンスも想像力も誰より溢れてたのだ。ということが分かるという点でこの映画はとても意義深いと思う。パフォーマンスや演出そのものももちろん素晴らしいのだけど、それを考えてつくってる最中のマイケルの姿がすごく良かった。アレンジは基本的にレコードに忠実にしてたようだけど、“The way you make me feel”の「ベッドからはい出るような」スローな感じすごくかっこよかったし、逆にジャクソンファイヴ時代の曲をかなりアップテンポにしちゃってるのもアリだなあと思ったし。

 彼はこのコンサートで、今までの音楽人生のいいことも悪いことも受け入れて、全部整理してしまおうと思っていたのだろうか?その答えは知る由もないが、この公演が無事やり遂げられていたら、彼は過去を清算して自由(幼い頃からスターだった彼にとって、それはほとんど生まれて初めて手にするだろう自由)になれたのかもしれないなんて想像してしまう。だからとっても残念だし悲しい。 彼がみんなに優しかったのと同様に、彼のファン以外の人も彼をもっと敬うべきだった。彼はゴシップ・キングなんかじゃない、キング・オブ・ポップなのだから。死を悲しまれたところで何になろうか。