EL ESPIRITU DE LA COLMENA / EL SUR

minii2009-11-12


ビクトル・エリセ監督『ミツバチのささやき』『エル・スール』を観てきた@早稲田松竹

 火曜日に代休を取って観てきた。前夜に前頭部を血が出るほど強打したせいか、低気圧のせいか。厭な頭痛がしたがこの日を逃したらこれらの作品をスクリーンで観ることは一生できないかもしれないと思い、ようよう起きて出かけたのだ。

 この映画館に来たのは二度目で、前回はアキ・カウリスマキの3本立てだった。10年と少しぶりに『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』を観て、そしてジョー・ストラマーの歌う姿*1をスクリーンで観て、もう胸がいっぱいになった、いい思い出のある映画館だ。今回も平日の昼間だというのにほぼ満席で、中年やそれ以上の男性が多く、空き時間にはロビーや外に掲示してある当時のポスターやパンフレットを熱心に読んでいたのが印象的だった。メモを取っている若い子たちは、映画作家を志しているのか、卒論の題材にでもするのかと、勝手な想像を膨らませるのが楽しい。

 『ミツバチのささやき』も『エル・スール』も、語るのは難しい。スペイン内戦の残した傷跡と、大人になる前の純粋な少女の心のざわめきが織りなす独特の世界、とか言えばそれっぽいかもしれないが、「それっぽい」ぐらいの妥協の言葉で飾るぐらいなら、黙っているべきだ。そう思わせる力がどちらの作品からも溢れていた。美術館に行って有名な絵を観るところを想像してみよう。できるだけ有名で、できるだけ大きなものがいい。きっと多くの人が、美しさに圧倒され、すべての言葉を飲み込んでしまうに違いない。この二作品を観て、私はまさにそんな状態に陥ったのである。

 ハニカム構造の窓、逆光に隠れされた父親の顔、アナの「色気」とすら呼べそうな憂いを含んだ表情、夜の闇。朝の冷たい空気、振り子、お嫁さんみたいな格好で父と踊るダンス、二杯目のコニャック、草と猟銃・・・それらすべての情景は、きっと死ぬまで私の心の中から消えない。どちらも極めて静かな映画だが、普段とは違う意味でとびきりパンチが強い。

*1:コントラクト・キラー』