GRAN TRINO

グラン・トリノ [DVD]

グラン・トリノ [DVD]

クリント・イーストウッド監督『グラン・トリノ

 
 私にとって「アメリカ映画」として思い出されるのはやはりヴィム・ヴェンダースの『パリ・テキサス』です。 なぜ、ドイツ人の映画作家アメリカの資本から離れて製作した20年以上も前の作品を選ぶのかといえば、おそらく監督自身が発した「最後のアメリカ映画だ」という言葉の印象が強烈だったせいもあるのでしょうが、それだけではありません。 昨今のハリウッド映画を観ていると、アメリカの資本でアメリカの製作所でアメリカ人の俳優や監督でつくっている作品にも関わらず、それが本当に「アメリカ映画」なのか?という疑問が拭えないことがあります。これほどCGを多様するならば、コンピューターさえあればどこででもつくれる=場所性を喪失しているのではないか。だったらあえて「アメリカ映画」と呼ぶ必要もあるまい。と思ってしまうのです。ただしこれはいわゆるメインストリームの作品に限ってのことで、実際には素晴らしいアメリカ映画も生み出され続けているのですが。

 
 前置きが長くなってしまいました。
 そのような現在のアメリカ映画界において、クリント・イーストウッドという誰もが知る大スターが、この『グラン・トリノ』という素晴らしい「アメリカ映画」をつくったことは、考えれば考えるほど大きな出来事に思えてならないのです。


 「未だに'50年代だと思ってる」と言われるほど超オールドファッションで超頑固なおじいちゃん(もちろん戦争には行った)が、他者に対して次第に心を開いてゆく様をクリント・イーストウッドが演じるならば、ハリウッドお得意の感動超大作にすることはいくらでもできたはずだ。しかしこれはあえて、小規模作品に抑えられている。つまり、一切れが大きいが味も大味のアメリカン・パイではなく、さながら小さい中に味も香りもぎゅっと凝縮されたフランス菓子のように深い味わいと長く続く余韻が、この映画にはあると思う。

 
 おそらくこの作品は、脚本がすごく良いのではないかなぁ。
 イーストウッド演じるウォルトが心を開く相手が、自分の子供や孫ではなく、隣家に住むモン族の少年であるということ。
 ウォルトが何らかの病気に罹っていて、おそらく死期を悟っていただろうということ。
 息子とうまくやれなかったことを懺悔しながら、自分の一番の財産はやはり彼らの手には渡さないこと。
などなどの小さな伏線やエピソードが実に効果的に作用しており、ともするとアメリカ的正義感を声高に叫ぶような偽善的な結末になりかねない物語を、悲しいながらも爽快な、そして少し洒落の効いた美しい作品に仕上げていると感じた。随所にコミカルなやりとりもあるので重たくなくてとても観やすい。男同士って老若問わず万国共通なのね。タイトルのグラン・トリノという車の存在も、重要だがうるさくない名脇役のようである。

 結局、古い人間がいいとか悪いとか、最近の若者は云々とか、そういう問題ではない。人は10代でも70代でも同じく、よりよく生きる権利を持っている。劇中のグラン・トリノが、'70年代の頃のまま、新車同様であり続けたように。