The Hottest State

痛いほどきみが好きなのに [DVD]

痛いほどきみが好きなのに [DVD]

イーサン・ホーク監督『痛いほどきみが好きなのに』


 イーサン・ホークってどういう位置づけなんだろうな。日本女子はこういうタイプって好きだと思うんだけど、男の人が見てカッコイイ男の部類ではない気がする。加えてこの(こっ恥ずかしさのあまり呆れるフリをするしかない)邦題やポスターの雰囲気などなど、いかにも女性向けの甘く切ないラブストーリーとして宣伝されていたように思うけれど、実体はだいぶ違う。


 イーサン・ホークが自伝的小説を自ら映画化したこの作品は、あくまでも「男」の物語だ。大人になってから振り返る青春期の恋はきっと、とびきり美化されてとびきり悲劇化されているのだろう。確かにこの映画はそのロマンスの部分においてドラマチックでリアルで、切ない。けれどそれ以上に、これは主人公ウィリアムの「家族」と「人生」を描いていて、彼がそれらに対して一歩踏み出す瞬間の、夜明けのころのひんやりした空気のようなきらきらした爽快感こそが素晴らしいと思うのだ。


 終盤、「僕は何にも繋がっていない」と彼が自分の孤独感について吐露する場面があるのだが、でも本当は全部が繋がっていて、最後に彼が運転する車の後部座席にはまだ恋人同士だった頃の彼の両親が乗っているし(彼は車の後部座席でできた。)、サラと出会って失恋しなければ誕生日に母親と会って助言をもらうこともなかっただろうしおそらく、父親に会いにはいかなかっただろう。そして、それまで避けてきた者たちと再び邂逅することがなければ、彼は21歳になっても20歳のままとなんら変わらず、人生を始めることができなかったかもしれない。


 原題は“The Hottest State”「最も暑い州」で子供時代を両親と過ごしたテキサスのことである。そのことからも分かるように、これは一人の男の人生の初めの21年間そのものなのだ。それをラブストーリーの形でポップ映画にしたイーサン・ホークの監督としての手腕は予想以上。ウディ・アレンジム・ジャームッシュの映画で数々の「息子」を演じた主演マーク・ウェバーの、イーサン・ホークの父親の息子としての演技がやはりいい。台詞も詩的で作り手の繊細さを感じる。派手な作品じゃないけど何気に必見である。