Into the Wild

イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]

イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]

ショーン・ペン監督『イントゥ・ザ・ワイルド
 
 思った以上に凄い作品でしたね・・・148分もあるのだけど90分すぎたあたりからなんだかランナーズ・ハイみたいになってきてぐいぐい引き込まれてしまって。マテリアル・ワールドにうんざりした青年の物語だから映るのは大自然ばかりだし(もちろんそれが美しいのは言うまでもなく)、テンポも決していい方ではないと思う。でも登場人物が全員キュートで愛らしくて、あるいはそう見せている監督の手腕もあるのでしょう、自然の厳格さに寄せられた眉間の皺が時々緩む、その微妙な、ほんの少しの緩急の差が非常に効果的だと感じました。時空間も行ったり来たりするのだけど、主人公の容貌が変わるから混乱はしません。主演のエミール・ハーシュは18kgも減量したとか!

 主人公クリス/アレックスの旅が「いいこと」だったのか、正しい選択だったのかはわかりません。経済的に不自由なく優秀な成績で大学を卒業した「恵まれた」子供の、甘えた愚行だったと思う人もいるでしょう。あるいは彼の家庭環境が及ぼしたトラウマによる現実逃避とか、色々もっともらしいことは言えると思います。でもそれらの考え方はたぶん、決定的に間違ってるんだろうな、とも思います。だからと言って彼が本当に正しいのか?それはやっぱり分からない。だってそれが生きるということだから。

 彼は自分自身の死をどう受け止めたのか。もし、長生きしたらどんな人生を歩んだのか。私には想像もつきません。しかし少なくとも、彼の晩年は彼の人生において正しかった、その事だけはなぜか確信が持てます。2時間半に人間と世界、生と死を映し出してしまった凄い映画。目新しいことなど何もないが、唯一無二。ショーン・ペンはダテじゃないぜ。