Filth And Wisdom
マドンナ監督『ワンダーラスト』を観てきた@ヒューマントラストシネマ渋谷
よかったです!この映画好き!やはりマドンナはタダ者じゃないんだなあ。初監督でこんなものが撮れるなんて凄い。人脈の広さも関係あるとは思うけど、やはり彼女の才能あればこそなのだと思う。「女性」の「初監督作品」として無理やり括るなら、ミランダ・ジュライ『君とボクの虹色の世界』*1よりずっとずっと良いし、ソフィア・コッポラ『ヴァージン・スーサイズ』よりずっと好きです、私は。
「ワンダーラスト」ってカタカナで書くと字面も語感もいいけど、意味としては「欲望」なので、原題の“filth and wisdom(悪徳と知恵)”の方が内容に則していると思います。それぐらいいい意味でマジメな映画でした。まず映像の褪めた色合いがすごくイイし、群像劇なのに一人も嫌いなキャラクターがいなかったのが驚きでした。ストリップバーのオーナー達はまあ、多少イラっと来るけどその程度。なんでかなと思ったら、みんなそれぞれ「がんばってる」からなんですね。「努力してる」っていうとニュアンスが違う。「一生懸命」かどうかも怪しい。常に必死で何かを我慢したりしてるわけじゃないから。でも何か信念のようなものがあって、それにしがみついてる感じが素敵だった。それこそ「一生懸命」「努力」してる姿というのは映画作品にしたときは極めて陳腐で偽善的に見えることが多いわけで、この作品はそういう類のものとは全然違うと思います。
素敵なのは主人公の3人だけではなくて、周りの人たちもそうで、盲目の詩人も、インド人の薬局経営者とその妻も、実は一番感動したのがSMに足繁く通うサラリーマンと夫の浮気を疑う妻のエピソードで、あの太った奥さんがしたことってほんと、女の鑑だと思った。あれぐらい度量の大きな女になりたいと思う。彼女は体も大きかったけれども。
最後は奇跡ぐらい唐突にハッピーエンドになります(ネタバレ)が、人生ってそういうものなんじゃないかと思う。私たちは自分の行動や結果に、後から理由をつけがちですが、それって本当に必要なのだろうか?理由なんて言い訳となんら変わらないじゃないか。というのは単なる私の見解ですが、少なくともこの作品からは、努力をすればいつか報われる、みたいなメッセージは感じなかったのです。なんというか、地獄を見る勇気を持てるかどうか、そこへ堕ちても心が折れずに保てるか、みたいなことを思いました。結末がさらっとしてるのもよかったですね。愛らしい人たちのこの人生は続いてくんだなあっていう。
ゴーゴル・ボルデロのユージン・ハッツがセクシーなのにびっくりした!たとえばヴィンセント・ギャロのような病的な色気を持ちつつ、目が透き通っていてキュートで。ミュージシャンより俳優のが向いてるんじゃないかなあと本気で思いました。ていうか彼がまた映画に出るなら(既に出てるらしいですが)観たいと思ってしまった。あとバレエダンサー/ストリッパーを演じたホリー・ウェストンもクラシックな顔立ちが気丈な雰囲気を出していて素敵でした。
どこも手を抜いていない、情熱をこめてつくられた映画だと思いました。いい作品だと思います。