Happy Together

ブエノスアイレス [DVD]

ブエノスアイレス [DVD]

ウォン・カーウァイ監督『ブエノスアイレス

 さすがアマゾン。夜中に注文しても翌々日の朝には届く。欲が満たされてちょっと爽快。でもやはり切ない。

 世界で一番切ない映画ってこれじゃないかなあと思う。他を知らないだけだと言われてもね。

 私はこの映画を何度も観ていて、その度に、なんで好きなのに一緒にいれないのかなあ?と思ってきたけれど、今回初めて、なんでこの二人はお互いを愛してるんだろう?と思い、これまでよりもずっと切なくなった。だってその疑問に対する答えなんか無いから。理屈じゃない愛で繋がる者たちを「運命」と呼ぶのに、一緒にいるのは苦しく、離れているのもつらい関係を「腐れ縁」と呼ぶわけで、私たちは男女であれ男同士であれ(おそらく女同士でも)、その二つの境目が分からないから胸が痛むのではないかと思う。この映画の中のファイ(トニー・レオン)もウィン(レスリー・チャン)も、全編通して切なげに見えるのは、両者ともその胸の痛みに苛まれているからだ。そして彼らは男同士だけれども、その「痛み」は普遍的なので、私はこれを世界一切ない映画だと思う。

 ファイとウィンはもう出会うことはないのか?第三の男、チャン(チャン・チェン)のファイに対する想いの正体は?結論が明確にされていないと思っていたけれど何度も観ると、極めて単純な物語であることに気づいた。チャンがゲイであれストレートであれ、ファイは彼の存在によってウィンとの腐れ縁を断ち切る決意をすることができた。もう一度出会ったらまたやり直してしまうかもしれない。彼はウィンにパスポートを返していないしね。でもそれならそれでいい。胸の痛みはもう消えうせたから。ただ英題とエンドタイトルが“Happy Together”なのは意味深かもしれない。まあ、解釈は人それぞれだし、私ももう一度観たら考えが変わるのかも。

 この映画は内容が素晴らしいだけでなく、映像もそれに見合っています。ロードムーヴィーといえばヴィム・ヴェンダーズとジム・ジャームッシュで、彼らはその粒子の粗い、乾いたアメリカの風景に、ヨーロッパの哀愁を漂わせました。ウォン・カーウァイ(及び撮影のクリストファー・ドイル)はそういった典型を踏まえ、モノクロで描いた旅の場面などは思い切りハイコントラストに黒を潰し、白を飛ばしています。しかしカラーはやはり強い陰影でありながら、湿度によって滲んだような風合いになっており、それが良い意味でアジア的なように私には見え、異邦人としてブエノスアイレスで生活する彼らの郷愁のようなものも感じ、重ねがさね切なくなるのです。

 いつどんな時に観ても切なくなるのに、何故かまた観たいと思ってしまう。どこからどうみても素晴らしい映画です。