Wild At Heart

 “At Last”を紹介するのに『ワイルド・アット・ハート』の映像を使ったのは全くの偶然ですが、これもご縁、そういや未見だったと思い出し、観てみました。デヴィッド・リンチ作品はどれも感想を書くのが難しい。これだって大したストーリーじゃないのに、色々考えてしまいます。きっとそこが魅力なのだろうなあ。
 とりあえず必見なのは、ニコラス・ケイジがエルヴィスを歌うとこと、ストッキング被ったウィレム・デフォーの顔のアップ(怖すぎ!)、道中“Baby Please Don't Go”ばっかり聴いてる情けない男(演じるはハリー・ディーン・スタントン!万歳!)の最期の表情といったところでしょうか。そしてフレデリック・エルムスの撮るアメリカほどカッコイイアメリカの風景は無いのではないでしょうか。
 どの作品を観ても私は、リンチ監督ってちょっとフザケてるのかな?と思うし、そのフザケてる部分を省いたら90分くらいでいい感じに収まるいい感じの映画になるとも思うのですが、それではやはり面白みが無いのでしょうね。そういうところがすごく、音楽的だと思います。究極的には美しいメロディとそれに最適の歌唱さえあれば、聴く者の心を動かすことなど容易ですが、いわゆるポップソングというのはそうはいかなくて、然るべきところで然るべき楽器が使われ、然るべきコーラスが入れられ、然るべき箇所で転調して、それらすべてがビシッとハマるとカッコイイわけです。リンチ監督の映画も同じように、物語の本筋と一見して関係の無さそうなカットやキャラクターを然るべきところで挿入して、「一曲の映画」を盛り上げているように思われます。
 だからこの作品は、ロケンローでポップでカッコイイのです。トラウマを克服する人間の話でもあり、『オズの魔法使い』へのオマージュ*1でもありますが、なんだかんだ言ってもそれ以上にバカなラブストーリーです(その点においてオリバー・ストーン監督『ナチュラル・ボーン・キラーズ』と似ている気がします。)。
 そんな映画に遭遇したらどうすればいいか?バカすぎて呆れながらも憧れてしまえばいいのです。だってそれより他に、為す術があるでしょうか。

*1:思い出すのは松尾スズキの『クワイエットルームにようこそ』。何かしら追い込まれているような精神状態になったとき、人はかかとを3回鳴らしてしまうものなのだろうか。