空白の'90年代

 2週間ほど前だろうか。ラジオをつけたらレディオヘッドが来日するという話で、彼らの初期の曲である“Creep”と“Just”が流れてひどく懐かしい気持ちになった。そしてエルトリートのテレビで見た椎名林檎の“メロウ”のPVのことを思い出したのだ。

椎名林檎―メロウ

 これ、映像は今年つくられたものだけど音源は当時のままらしく、この曲が収録されているCDが出たのは2000年だから録音されたのはギリギリ'90年代になるのだろう。そのことを知っているせいか、或いは製作者の意図なのか、いずれにしてもこの音と映像のギャップが私にはすごく大きく感じられて、何度見ても違和感がある。そして久しぶりにこの頃の彼女の曲を聴くと、上に挙げたレディオヘッドの2曲と耳障りがすごく似ているように思われ、椎名林檎トム・ヨークの影響下にあったことを差し引いても、つまりはこの音が、ひとつの「'90年代の音」なのだな。と思ってぎょっとしたのは、私は「'90年代の音」などというものが存在するとはつゆも考えていなかったからだ。
 音楽を聴こうと思えばそれが何年にどこの国でリリースされたもので、その時代背景や流行がどうとかいうこともちょっとぐらいは意識せざるをえないのだが、なぜか私の中には'90年代も'00年代も一緒じゃん!という諦念のような感覚があって、だから「'90年代の音」という観念はなかった。けど。この音は今聴かない気がするもんな。時代の産物だよな。ってさっきから音音って言っているけど具体的に表現できないのがもどかしいですね。ていうかそもそも初期の椎名林檎と初期のレディオヘッドの音に共通点を見出す人がどれぐらいいるか分からないから、時代の音などと呼ぶのはお門違いなのかもしれない。
 でもさあ、だったらさあ、'00年代の音って一体何?

Radiohead - Just