町田康『宿屋めぐり』

宿屋めぐり

宿屋めぐり

 キリストとその創造主と他の神様たち、中島らも、著者本人にあなたに私にエトセトラ。この本にはそれら全ての人物が出てきます、もちろん姿を変えてではありますが。 
 自分のことが書いてあるから目を背けることができず、小説世界は現実に介入してあなたの安寧な日常を蝕むでしょう。何故なら登場人物たちは皆、善人なのか悪人なのか、本当には分からないからです。何が真実で何が正義か。そんなことを日常的に考えていたら参ってしまうから無視しているのに、この本はそれを考えることを堂々と強いるのです。危険な本です。
 『告白』のテーマが「人はなぜ人を殺すのか」であったのに対し、本作のテーマは「人はなぜ生きるのか」だと思います。小説としては『告白』ほどの切なさと衝撃はなく、些か冗長に感じるところもあったほどですが、心に残る度合いとしてはこちらの方が上かもしれません。私はこれから何度も読み返すだろうと思います