Across The Universe

ジュリー・テイモア監督『アクロス・ザ・ユニバース

 ミュージカル映画だから言うことは特に何も無いのだけど、意外と面白かったなあ、これ。「ミュージカル映画だから」というのは、多くのミュージカルは歌や踊りの良さそのものが作品の価値で、ストーリーは添え物にすぎないから、それについてあれが良かったこれがイマイチだった等のことを言うのは極めて野暮で、何も言わずにあー楽しかった。で終わらせるのが適当だと思うから。そして「意外と面白かった」というのは、この作品がその多くのミュージカルとは異なり、内容や作意に奥行きが感じられたからである。
 それに何よりも、私はビートルズがあまり好きではないのですが、全編ビートルズ一色なのに飽きずに楽しく観られたということが感動だった。たしか、自分たちの曲はオリジナルじゃない、とかそんなことをジョン・レノンは言ったはずで、それが「真のオリジナルなど存在しない」という意味だったかどうかは知りませんが、しかしその彼らの曲を使って既存のものあり合わせのものからでも、十分にオリジナルと呼べる作品を創り出すことができると、この映画は証明していると思います。それが一番、劇中の恋愛よりもずっと、ロマンチックに感じられた。
 イギリス人で労働者階級の不良と、アメリカの中流階級のお嬢さんの恋、という陳腐な題材を結構リアルに描いてしまっているし、ベトナム戦争への反対運動なども、まあ時代背景の一部かと思いきやそれ以上だし、かと言って「戦争反対に反対する奴はぶっ殺す」みたいな見失った正義感を発揮するでもなく、ただ冷静に客観視させて暴力そのもののアホらしさを呈示する、みたいなことになっていてなかなかバランスが良く、しかも物語の流れ的に必要だしね、私はなんだかすごく脚本・演出に「器用さ」を感じました。もちろん、どこにどの歌のフレーズを嵌め込むか、というのが一番の器用ポイントであることは言うまでも無く、全曲ビートルズという「枷」があるからこそ伸びやかな映像が引き立つのだろうし、ひとつひとつの歌詞が本来持つ意味以上の意味を持ち得たのだと思う。
 ビートルズが好きじゃないと書いたけど、一番好きじゃないのが「イエスタデイ」で、その曲が使われなかったのも私にとっては良かったかなwあとはサルマ・ハエックの使い方が潔くて素晴らしい!というかサルマ・ハエックが潔いのか。いまやスターなのにあんな役でね。かっけえ女優だ。