Celestino antes del alba

夜明け前のセレスティーノ (文学の冒険シリーズ)

夜明け前のセレスティーノ (文学の冒険シリーズ)

 独り言のような単語の繰り返しと、脈絡の無さそうな空白や突然の引用、溢れんばかりのイメージ。物語は夜見る夢のように、支離滅裂で辻褄が合わないように思える・・・これは決して読み易い小説ではないだろう。それどころか小説と呼ぶよりも、大きな散文詩だとすらいえるかもしれない。いずれにせよレイナルド・アレナスは、この『夜明け前のセレスティーノ』で並々ならぬ詩情を炸裂させて、自らの幼少期を描いたのである。
 この作品は、キューバの慣習や風土に対して、あるいは小説の読み方に対して、さらにはその両方に対して無知であると読み進めにくいように見えるが、本質的にはかなり普遍的な内容だと思う。主人公は「詩人」であるがゆえに家族からも虐げられ酷い扱いを受けている少年であるが、普遍的というのは決して不幸な境遇にあった読者にだけではなく、すべての人にであると、私は信じる。
 誰にでもあったはずなのだ。自分を理解してもらえないことのさみしさ。親不孝をしたいわけではないのに残酷にならざるをえない魂の純粋さ。理想の世界を頭の中で創り上げて没頭し、現実との間隙に愕然とする日々が。それらの記憶は大人になるにつれ薄められ、いずれすっかり消去されてしまう。しかしこの作品を読むと、その痛々しくも瑞々しい頃の=夜明け前の 気分が蘇ってくるのである。そしてそれは人生において重要な体験なのだと物語の終盤で気づかされたとき、主人公が「僕のかあちゃん」について畳み掛けるように語る場面では、思わず胸が苦しくなった。