Before Night Falls

夜になるまえに [DVD]

夜になるまえに [DVD]


 文学作品の映画化というとどうしても、「映画より原作の方が良い」という感想が発生しがちだ。映画を作った者からすれば、お門違いな批判だろうけれど。本を読むとき、私たちは勝手に想像力を膨らませ、勝手にその作品の「自分ヴァージョン」を創造する。だから映画化されたものを観て自分ヴァージョンとのズレに失望する、おそらくそういうことだと思う。だから私は映画の方を先に観た場合、その原作を読んでみようと思うことはほとんど無い。失望することが分かっているからである。
 しかしこの作品は珍しく、映画を観た後に原作を読んでみたいと強く思った。原作だけでなく、レイナルド・アレナスの他の作品も読んでみたい。何しろ私は彼について何も知らずにこの映画を観てしまったから。だからこの映画がアレナスの人生に対してどれだけ忠実なのかは分からないが、少なくとも、キューバ革命に関する自伝映画として無理矢理括るなら、チェ・ゲバラの紀行を描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』よりもずっと面白かった。とにかく展開に過不足が無いから冗長に感じないのだ。最後はちょっとあっさりしすぎた感も否めないが。
 その過不足ない物語の中で、海や川や木々などの自然を映像として切り取るやり方、またその映像を物語りに嵌め込むやり方、それがとても効果的に感じた。スローモーションやクラシック音楽の使い方も、ベタだけど必要十分条件だと思う。
 アレナスの親友、ラサロが彼に尋ねる場面がある。どうして本を書くのか、と。それに対するアレナスの答えが本物なら、私はきっと、レイナルド・アレナスという作家を好きになるだろうと思った。そう思うきっかけになっただけでも、私にとっては意味のある映画体験となった。