Don't Come Knocking

アメリカ、家族のいる風景 [DVD]

アメリカ、家族のいる風景 [DVD]

 西部劇だカウボーイだと思ったら、それは単なるメタ映画(映画内映画)であった。まんまと騙されたことにニヤリとした。乾いた大地に青い空、フリンジつけて馬で駆ける男。しっくり来すぎてBGMの打音がもはや、ベースを叩く音なのか 馬の蹄の音なのか判別できないくらいだ。むしろ同じ風景に現れるセグウェイやヘリコプターが奇妙に映るが、この作品はおそらく、カネと権力に汚れた映画界を批判することが目的ではないようだ。
 前作の『ランド・オブ・プレンティ』は正直、ヴェンダースアメリカに対する執着の陰が濃すぎて見え、主題が主題だけに痛々しかった。しかし本作ではその執着が清々しく面白く転化されたように感じられ、「最後のアメリ映画作家」らしい傑作だと思う。ソフトフォーカスで女優を美しく撮る手法も「映画らしく」ていいし、彼の映画に出てくるまっすぐな道はとても美しい。CGじゃ作れない、アメリカの風景。旅に出ることはきっと逃亡ではなくて、逃げられない現実と向き合うために淀んだものを捨てる方法なのではないだろうか。そしてそれをするために、遅いということはない。
 自分に息子がいるかもしれないという可能性を確かめるために旅をする、という物語は同年公開のジム・ジャームッシュ監督作品『ブロークン・フラワーズ』と同じだが、全く異なるアプローチで面白い。すごく簡単に言えば、こちらの方が大人っぽいだろうか。オスカー女優ジェシカ・ラングはその両作品に出演しているが、私は断然本作の彼女の方が好きだ。
 陳腐でしっくりこない邦題が残念。