未来世紀ブラジル

未来世紀ブラジル [DVD]

未来世紀ブラジル [DVD]

 不可解だ。なぜ142分も飽きなかったんだろう。なぜSF映画にサンバの名曲『ブラジル』がこんなにマッチするんだろう。本作はこの食べ合わせが絶妙で、さながらメロンと生ハムのように好きな人は好きだし嫌いな人は嫌いだろうと思う。
 こういう類の映画を観るとつい、『ブレードランナー』や『時計じかけのオレンジ』を思い出すけれど、この作品はそれらよりもユーモア―しかも流石ex.パイソンズと思わせる繊細な笑い―に満ちている。なのに「ポップ」な感じはあまりせず、それがいいのか悪いのかは分からない。
 本編が長いだけあって、昨今のギリアム作品に感じるような物足りなさは無く、物語も複雑すぎずに複雑で、スケールも壮大すぎずに壮大だ。特に終盤の場面展開は圧巻で、眠っているときに見る夢のように、脈絡が無いかのごとく変化してゆく。そして実際それは夢だったのか、あるいは「夢だった。」という夢だったのか。これは物語にはっきりとした結末を求める人には向かない作品だろうと思う。
 この作品には多くのテーマが込められているが、私が最も強く感じたのは「狂気」であった。テロリストの狂気、テロ撲滅への狂気、出世への狂気、管理への狂気、美と若返りへの狂気、恋の狂気。そしてそれらはいつでも常に、人々が抱えている狂気である。だからこれは、80年代に作られたローテクのSFでいわゆるカルト・ムービーなのだろうけど、実はとんでもなく普遍的なのではないかと思う。