細江英公『おとこと女』(復刻版)

minii2007-10-07

 店内BGMが良かったのでスキンヘッドの店員さんに尋ねたところ、私物なんですけど、と言ってCDを見せてくれた。帰宅してから検索したけど、ちゃんとメモしなかったせいで見つからなかった。後悔したけどすぐに忘れた。忘れられなかったのは、その店にあった写真集だった。

おとこと女―細江英公写真集 (1961年)

おとこと女―細江英公写真集 (1961年)

 といってもただその写真が欲しかったのではなく、巻末に寄せられたエド・ヴァン・デル・エルスケンの文章が読みたかったのですが。 私はエルスケンの作品ももちろん大好きですが、写真家本人も実は結構かっこいいと思っています。あのあまりにも有名な肖像の、力強い顔立ち、開いた脚の角度、そして何と言ってもファインダーに添えられた指の骨っぽさ。骨のある男とはコインランドリーで洗濯できる男だ、ときいたことがありますが、彼はそんなものでは済みません。だって小銭とカメラだけを持ってアムスからパリに移住してしまったんだから! こんな男が今の日本にいるでしょうか? もしいるならその人を探す旅に出たいぐらいです。

 いざ目的の解説文を読んでみて、エルスケンのヌード写真観を知り、その冷静さと知性、人間らしさ、正直さ、そして硬派さでますます惹かれてしまいました。

 メインの写真の方は、買ってからしばらくは毎日眺めていましたが、今ではそれもやめ、つまり理解しようとすることをやめました。それらの写真は何度見ても頁をめくる度に新鮮に感じられ、fresh(新しい)とflesh(肉体)のカタカナ表記が同じなのは偶然ではないと私に思わせました。たとえば地面に突き立てられる三本の腕を写したものは、荒木経惟の、青筋立った男性器の写真と同じくらい観る者をドキリとさせ、目の周りを黒く塗った女の顔はさながら、死者の体から切り離された首のように見えるのです。
 私は「狂気」とは、生と死の融けあう処なのではないかと考えていますが、この写真集には限りなく狂気に近いものが写っているように思えます。
 2007年7月18日 仏滅。