Johnny Suede

ジョニー・スエード [DVD]

ジョニー・スエード [DVD]

トム・ディチロ監督『ジョニー・スエード』

 トム・ディチロに関して私が知っているのは、ジム・ジャームッシュの下で撮影監督をしていたということだけ。監督としてそれほど有名になっていないためか?主演がブラッド・ピットなのにちょっと日陰に置かれているこの作品。
 ときどき挿入されるジョニーの「夢」の場面は不可思議で、デヴィッド・リンチを彷彿させるようにも感じ、ラストカットも意味ありげで観終わった後は、不思議な映画だったなあーという感想に満たされるのだけど、落ち着いて全体を反芻してみると、ん、これってフツーの青春映画だったんじゃないか?という結論に至る。
 何年か前、私が当時住んでいた家の近所に、いつも同じ時刻に同じ場所に路駐して室内灯で文庫本を読んでいる中年の女性がいた。そこはマンションの多い地域だったから、その女性は私立探偵で、どこかの部屋に住んでいる女子大生を調査しているんだと私は思ってた。ある日、女性はいつもと同じ場所にいて、するとその近くに私立高校のバスが停まった。学生服に身を包んだ一人の男の子がバスから降り、家にいるときみたいに弛緩し切った表情で「私立探偵」の車に乗り込んだ・・・彼女は探偵なんかではなく、ただ息子のお迎えに来ていたお母さんだったのです。
 何が言いたいかというと、ごく普通のものでも変な見方をすれば違うものに見える、ということ。
 この映画も不思議な雰囲気だし、出てくる人たちも変わってるように見えるけど、ピンクばっかり着て男とっかえひっかえしてる女の子も、暴力を振るう写真家も、私生活のさっぱり分からないミュージシャンも、周りを見渡せば似たような人間はゴロゴロいるのだ。特にジョニー・スエード。夢はあるが芽が出ず、何もかもうまく行かないとむしゃくしゃして誰かを殺したいような気持ちになり、青年期の性欲をもってして不実である。これは若い男の子の典型と言ったっておかしくないでしょう。
 そう考えると、何も無い物語を、さも何かあるように演出してみせたこの作品、意外と面白いかもしれません。いい映画かどうかときかれるとちょっと答えに詰まりますが、嫌いじゃないぜ、私は。それにダーレットが着てたピンク地に黒のモコモコがついてるライダースが超カワイイ!