The Darjeeling Limited

 レンタルショップで、ウェス・アンダーソン監督作品のDVDが「コメディ」のコーナーに置いてあるのがずっと納得できず、ではどのコーナーが適切かといわれると「ドラマ」しかないけれど、それも芸が無さすぎるし分類の意味がないので、自分なら「ロードムーヴィー」コーナーを設けてそこに置こう。などと常々妄想していた。
 もちろん『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』も『ライフ・アクアティック』も、ロードムーヴィーの基本である「空間の移動」をベースにした物語ではない。しかし、しばしば比喩として言われるように、人生は旅。『ザ・ロイヤル〜』はダメな父親が家族を取り戻す「旅」であり、『ライフ〜』は青年が未知の父親を探す「旅」であり、私はこれらの作品はどちらも、精神のロードムーヴィーであると思う。
 そこで現れたのが『ダージリン急行』。タイトルの通り列車での旅が主題となっているのだから、(私の中では)名実ともにロードムーヴィー、(勝手ながら)真打登場*1なのである。
 父親の死をきっかけに絶交していた三兄弟がインドを列車で旅し、さまざまな人々と出会い、別れ、祈りを捧げて人間的に成長したうえに兄弟同士の絆を深める・・・というあらすじはまあ大したことないというか、正直陳腐だが、そこもロードムーヴィーらしくて良いと思う。キャスティングも素晴らしいし。全然違うのになんだか似ている三兄弟。その彼らが最後には本当に、わざとらしいほど善人に、そして素晴らしい兄弟になっているのだけど、その劇的な変化を当然のものと思わせるプロセスづくりは無駄が無くて巧い!
 前作『ライフ〜』では手段と目的が逆転しているようにも思えた映像技術や撮影方法も、本作では本来の役割に徹しており、アンダーソンフィルム独特の雰囲気は終始濃厚でありながら、本質と対峙するためのシンプルさも獲得したように思われる。そして、前2作の主題であった親子間の確執(に対する監督の執着)も本作ではかなり克服されていて、主人公のホイットマン三兄弟同様、この作品自体が、トラウマを乗り越えて自由になった魂のように感じられて清々しかった。
 人生は旅。私たちは皆それぞれの列車で旅をしている。それを時々は降りねばならないが、またすぐ別の列車に乗るのだ。そして次の列車を待つ間に、何かを学ぶのだ。時々は乗り遅れてしまうがそのときは、全力で、走る。荷物を捨てて飛び乗ろう!その方がきっと、たくさんの荷物を抱えて列車を待ち続けるよりも意味があるのではないか。この映画を観てそんなことを考えた。

 主演の三人はもちろん素晴らしいが、アンジェリカ・ヒューストンが最高にカッコイイ!陽が傾き始めたころの景色のごとく、薄黄色のフィルターがかかったような画面も好もしく、ロードムーヴィーの純粋型といえる本作は、最近観た映画の中ではかなり好きな一本となった。

*1:監督デビュー作の『アンソニーのハッピーモーテル』が既に車で旅するロードムーヴィーだったけど。