Love On The Left Bank

セーヌ左岸の恋

セーヌ左岸の恋

彼らは善人なのか悪人なのか。
絶望しているのか希望に満ちているのか。
美しいのか醜いのか。
幸せなのか不幸せなのか。
感受性豊かなのか無感覚なのか。

そしてこの作品は、現実なのか虚構なのか。

これら対立する二項のどちらでもある(ない)、あるいはそれらの間に存在するといえるかもしれない。だが、それは大した問題ではないように思う。

ほとんど余白の無い、濃密なモノクロームの世界。
静止しているが、同時に動き続けている彼らの世界。
私は彼らの躍動を、微細な表情の動きを、そばかすや毛穴を、眼球を這う血管を見るとき、その体温と心音を感じて愛おしさを覚えた。

たしかに、現実にはアンもマニュエルも存在しない。
しかしそこに写る彼らはその時代、その場所で
熱を持ってもがいていた人間であり、それはまごうことなき真実である。
だからこの作品は現実より現実味を帯びて、
我々の胸を打つのではないか。