欲望

試しに、mixiで書いたレビューを載せてみる。
何故なら眠くていまは何も思いつかないから。


 

欲望 [DVD]

欲望 [DVD]

 60年代のロンドンが舞台だから、とにかくディテールが派手で奇抜でハチャメチャで、そうなると物語の本筋というのが見えなくなってくる。しかし本作は筋を無視できる実験映画とは異なる。その証拠に、始めと終わりがシンメトリーになるようにカットを配置しているし、長回しや第三者の視点(=監督の視点)も多く見られる。つまり、これはかなり正統派なつくりの映画だと私は思っている。

 金も名声も手に入れた写真家(かなり鼻持ちなら無い男)が、とある事件に関わる写真を偶然撮ってしまう。彼はその事件を分析するため、写真の細部を繰り返し拡大焼付け(blow up)してゆくが、真実は得られない。否、「真実を得られないこと」自体が真実である、というべきであろう。

 ブローアップされた写真は、より具体的な情報を持つものとして描かれているが、それは荒い粒で描かれた抽象画のように見える。元の写真が無ければ、その抽象画が真実であると信じることはできない。そして彼は、それら全ての「真実の証拠」を失ってしまう。真実を失い、真実を得る。最後に蛮族(と呼ぶことにする)の見えないテニスボールをつかむことができたように。
 あるいは真実など始めから無かったのかもしれない。主人公の「写真家」は、名前すら持っていなかったのだから。

 個人的にはヤードバーズのライブシーンが印象的であった。無反応という不気味さが見事に描き出されている。そしてそれを動かすのは一つの「破壊行為」であり、モノに価値を付与するのは一重に社会による認知であるということの恐怖。
何故か、梶井基次郎の『檸檬』を思い出した。